2006年11月03日

移転しました

すいません。 移転しました。

もう1人の管理人を追放するために移転しました。

キャシャーンの毎日
posted by キャシャーン at 16:11| Comment(23) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月29日

小説2

今回も長いですが前回よりは短いお話です。


列車 byキャシャーン


大学から帰る途中、偶然同級生の佐藤と会った。同じ小田急線で帰ることを知っていたので、別に親しい仲でもなかったのだが、一緒に電車に乗ることにした。
 下北沢で小田原行きの急行列車に乗り換えた。彼は列車に乗り込むとそのまま前の車両へと進んで行った。成る程前の方が比較的空いていることは間違いない。今は午後三時半。まだ混雑しているとは言いがたい時間だったが、座席は学生や主婦で殆ど埋まっていた。隣の車両へと次々と進むうち、ついに一番前の車両に来た。彼はその車両のさらに一番前、運転席の見える前方を向いた窓の前に立つと、やっと落ちついた様子で、組んだ腕をガラス窓の下の取っ手に乗せた。
 しばらくそのまま隣りに立っていたが、二駅ほど通り過ぎたところで数人が座席から腰を上げて列車を降りて行った。席が空いたから座ろうと彼を促す。しかし、彼はただ笑って見せただけで、その場を動こうとはしなかった。
「別に座りたければ座ってもいいですよ。僕はここにいるから」
 彼はそう言うと、またまっすぐと前を向き、列車の向かう方の風景に目を移した。
「電車に乗る時はいつもここに立って前を眺めているのかい?」
「うん」
「そんなに景色を眺めるのが面白いのかな?」
「そうですね。目の体操にもなるし」
 殆ど前方に視線を固定したまま、しれっとした口調で彼は答えた。
 佐藤弘は教室でもどちらかというと目立たない、いつも静かに笑っている、といった風情の男だった。背が低く、髪はいつも寝癖がついたままで、牛乳瓶の底のような度の強い眼鏡をかけている。誰に対しても丁寧語を使うので、かえって近寄りがたい雰囲気があった。人が良さそうにも見えるし、毎日が退屈でしょうがないと思っているようにも見えた。他人には逆らわない主義のようだが、自分から何かを率先してやるというタイプでもなかった。
 いつも退屈そうにしている彼が、電車の一番前の車両に立って前を眺めているこの時だけは、どことなく楽しそうに見えた。少々不思議な感じもしたが、もしかすると実は子供っぽい男なのかも知れないなと思った。自分が電車の窓から外を眺めるのに熱中していたのはせいぜい十年ぐらい前迄だろう。
 それにしても熱心なことだ。こちらへ向かってくる景色のひとこまひとこまを残らず見逃すまいと、細い目をさらに細くしてじっと前を見つめている。
 たまにこちらから話しかけ、相手がそれにぽつりぽつりと答えた。そして二十分ほどが過ぎた。
「俺は本厚木までいくけど、佐藤は何処で降りる?」
「千歳船橋」
「えっ? だってもうすぐ町田だぜ? とっくに通り過ぎてるじゃんか!」
「終点から引き返せばいいんです」
「……ひょっとして毎日こうしてるわけ?」
「ええまあ」
 妙な男もいたものである。毎日学校の帰りに用もなく自宅の駅を通り過ぎて終点まで行って、ただ帰って来るなんて。それも同じ景色を眺めるためだけに。
「住宅街や商店街の中を線路が走っているだけだぜ。そんなに飽きの来ない眺めとも思えないが」
「そうですか。でも結構スリルあると思うんですけど。何というか、スピード感を楽しめるというか……」
 彼は口元に笑みを浮かべたまま相変わらず前を見続けていた。
「こうしてぼんやりとただ景色を眺めるのも精神衛生上良いことだと思ってるんですけどね。学校と自宅の往復だけでは息が詰まるでしょう」
「そうかあ。世の中もっと面白い事があると思うけどなあ」
「そうでしょうか」
「何か部活とかやってないの?」
「別に興味ないし。うるさいの苦手で」
「映画に行ったり、飲みに行ったりとかは?」
「映画なら家でテレビを見ればいいし、酒なら自宅で飲んだ方が安上がりでしょう。どっちも大して興味ないけど」
「退屈な人生なんだね。今まで何も楽しいことなんか無かったわけだ」
「何か楽しい思い出なんてあるんですか?」
「少なくとも電車の窓から景色を眺めることより面白いことならいくらでもな」
「楽しい思い出なんて生まれてこの方一つもないなあ」
 面白くない男と一緒になってしまったなと少々後悔したが、彼はしばらく間を置いて、こう喋り始めた。
「まあ、強いて言えば、一つだけ忘れられない出来事があるんです。中学・高校のことは、同級生の顔すら良く覚えていない程度だけど、あれは都立高校の合格発表の日だった……。 あの時は、そう、わざわざ高田馬場にある学校まで出かけていったその帰りだったっけ。高田馬場から山手線で新宿へ、そして新宿で小田急線の急行に乗り換えたんです。たまたま列車の一番前で、丁度こんな風に前の見える窓から景色を眺めていたんですけどね。普通なら下北沢で普通列車に乗り換えて千歳船橋で降りるんだけど、その日はどういう訳かそうしなかった。合格するのは分かっていたから、何の感慨も無かったんだけど、何て言うかちょっとした解放感みたいなものがあったんでしょうね。いいやどうせ暇なんだからこのまましばらく乗っていようと思ったんです。何の気なしにね。ほんと、これといった理由もなく。
 今思うと何か予感のような物があったのかも知れない。ほんと、そんなことする必要は全然なかったんですからね。まして僕は、無駄なこととか単なる暇つぶしとか全くやらない人間でしたから。そんなことをした事はそれまで一度もなかった。不思議なものです。
 僕はぼんやりと外の景色が変わっていくのを眺めていました。何処で降りようという考えすらなかったんです。あのまま何も起きなかったら、終点までただぼんやりと乗っているところだったんでしょうか。
 やがて電車が町田駅へさしかかろうとした時……そうですね、玉川学園前の前か後か、確かその当たり。列車が少しカーブを描いて進んでいました。ぼんやりと前に伸びている線路を眺めているとですね、線路の上、これから列車が進もうとする二本のレールの間に、木の棒か何かが真っ直ぐ立っているのが見えたんですよ。一瞬おやと思いました。このままじゃあれにぶつかっちゃうぞってね。その頃から目が悪かったんで何が立っているのかすぐには分かりませんでした。僕の隣りに立っていた男の人もそれに気付いて、『危ない!』と声を上げたのでやっと分かったんですよ。それが棒なんかじゃなく、茶色い背広を着た男の人が、横を向いて立っていたのだという事がね。
 運転手は急ブレーキをかけた様でしたが、間に合いませんでした。一直線のコースだったら早くから気付いて止めることも出来たんでしょうが、緩やかな曲がり角だったんで避けようがなかったんですね。どんっ、というか、ずしん、というか、とにかく衝突した時にはそんな響きを体で感じました。人間の体って意外と重たいのかも知れませんね。軽く吹っ飛ばしてしまうのではと思っていたけれど、その時はかなり車両が揺れたんでびっくりしました」
 彼はそう言ってちらりとこちらを見た。まるで今その自殺を目撃したばかりだとでもいうように、その目はうるみを帯び、声はうわずっていた。
「列車はその人をひいた後、その場に停車しました。すぐに死体の後片付けが始まったんです。手際が良かったですね。車内はそろそろラッシュが始まろうかという時間で、結構混雑していましたけど、乗客達はしきりに不満をもらしていましたね。『自殺だって?』『よりにもよってこんな時に!』『全く迷惑な話だ! このままじゃ遅れてしまう』てな具合にね。本当、人間なんて冷たいものですよ。人が死んだっていうのに、他人の反応なんてそんなもんです。僕はむしろそっちの方がショックでしたね。人命は尊重されなくてはならないと思っていましたから。自殺をするからにはきっとそれなりの理由があるんでしょうから、それが良いとか悪いとか言えないと思うんですけど、少なくとも人は他人の死を軽くあしらっちゃいけないと思うんですよ。人一人死んだっていうのに、遅刻することぐらい何だと言うんです? ねえ?
 後始末の間、ずっと車内に閉じこめられていたんで、横からちらりと、ほんの少しだけ、白いシーツに隠された死体が線路の脇に置かれているのを見ることが出来ました。血は思っていたほど飛び散ってはいないようでしたけど、単に良く見えなかっただけかも知れません。だから視覚的な印象は薄いんです。死体をこの目で見たと言えるほどにはね。でも、列車がぶち当たるまで棒のようにじっと立ちつくしていた人間の姿と、あの衝突の時の体に響くようなずしん、という音だけは、一生忘れられないと思いました。こんな体験、人間か自殺するのをこんなに間近に目撃するなんていう体験はそう何度もあるものじゃあない。
 やがて列車はゆっくりと走り出し、そのまま次の町田駅まで行ったので、僕はさっそくそこで降りて、先頭車両の真ん前に何か血痕の後でも見られないかと思って覗いてみたんですが、十分に拭き取ったものと見えてそれらしい跡は全く見られませんでした。ひどくがっかりしたものですが、まあ一瞬人間がぶつかったくらいなら、そんなに血があたりに飛び散ったりはしないものなのかも知れませんがね」
 彼は何かを思い出そうとでもするかのように、ふと目を閉じてうつむき加減になったが、気を抜いてはならぬとでもいうように、またすぐに前を向いて景色を眺めることに神経を集中し始めた。
「……結局何だか恐くなってその時はそのまま家に引き返したんですけど、あんなに気持ちが高ぶったことは後にも先にもないだろうな。もしあの死んだ男の人が有名人か何かだったら、目撃者としてインタビューかなんか受けることになるのかな、その時は自分の感じたことをありのままに話してやろう、なんて思ったりもしましたよ。あの光景は、今も脳裏に焼き付いて離れない。僕にとって自殺を目撃した事は一番衝撃的な思い出です。しかもそれを、何の用もないのに町田くんだりまで電車に乗っていた時に目撃したなんてね。まるで僕がその自殺者に無意識に招かれたみたいな気がして……。今思い出してもぞくぞくする。わかります? こんな気持ち」
 彼は笑い顔とも泣き顔ともつかないような表情を浮かべて、ちらりとこちらを向いた。しかしその視線は、すぐに列車の進行方向へと戻された。
「命の重さなんて分かるとは言わないけど、少なくとも僕にとっては、あの人と列車がぶつかった時の大きな振動、あれが命の重みそのものだと思ってますよ。我ながら貴重な体験をしたなあと……。それまでいろんな本を読んだり映画を観たりしていたけれど、あの体験で初めてそれを実感しました。あの感じ、そう、あのずんと来る感じ……。他の人は何も感じなかったのかな、あの時同じ車両にいた人達は。感受性が鈍いのか、それとも僕と同じ様な感銘を受けてもそれを表に出さなかっただけなのか。
 とにかく、それ以来ですね。僕は必ず列車の一番前の、この今立っている位置で、列車が向かう先の景色を見つめるようになったんです。大袈裟かも知れないけど、人生に対する考え方が変わったと言ってもいい。それまでは死んじゃってもいいやぐらいに思っていました。今は自殺は自分でやるものじゃないと思ってます。あれはやるものじゃない。見るものだ」
 彼の口元がすこしはにかんだようにゆがんだ。
「僕はまたあれが見たい」
 彼はそう言い切ると、じっと前を見つめた。迫ってくる景色の一瞬たりとも見逃すまいという熱心さで。(完)
posted by キャシャーン at 18:40| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

小説 書きます

時間がないので他人のをちょっと変えて書きます。


殺意はやさしく忍び寄る by キャシャーン

第1話 インターネットに潜む悪魔 ジャック

パソコンのディスプレイには、パステルトーンのカラフルなホームページが表示されていた。『RESTARTー奈々のホームページ』というタイトルの下には、緑の丘から色とりどりの風船が青い空に舞うイラストがあった。さらにその下には、イントロダクション、プロファイル、ヒストリーなどというインデックスがあった。そして、ホームページを見た人が感想を送れるように、メール送信用のボタンが付いていた。その下には、「since February 13th 2006」と記されていた。
 イントロダクションのページを開くと、全体が淡いピンク色に変わった。そしてその中央に濃い青色の文字でこう書かれていた。

 私はナナ。二十八歳。
 3年前に結婚しまた半年前に離婚して、いまは再び独り身だけど、身も心も軽やかで夢がいっぱいに膨らんでいます。
 結婚する前の独身時代は、結婚への憧れもあって、独り身の素晴らしさを感じることが出来なかった。
 そして、憧れてはみたものの、結婚してみるといろいろと負担が大きかった気がします。 でも、今は独身の素晴らしさを満喫しています。
 毎日が楽しくて、離婚して本当によかったと思っています。
 ああ、人生ってこんなに素晴らしかったんだ、などと再認識しています。
 そんなナナの独り言を聞いてください。

 作者のプロフィールが書かれたページは、全体が淡い水色だった。但し、名前はナナとだけ書かれ、本名は伏せられていた。住所も同様に東京都とだけ書かれていた。そして、ナナの全身が写った写真が添えられていた。短目のスカートからすらりと綺麗な脚が伸び、大きく愛くるしい目が印象的で、その笑顔は人を惹きつける魅力に溢れていた。
 クリーム色のヒストリーのページには、離婚して独り身になった開放感や伸び伸びと生きる喜びに満ちた言葉が、そこここにちりばめられ、前向きに明るく楽しく生きているナナの姿が表わされていた。そして『結婚はもう懲り懲り、独りの方が人生は気楽で楽しい』と結ばれていた。
 写真も何点か添えられていた。撮影日の記述があったが、最近撮ったものばかりで、言葉を裏付けるようにそこに写し出されたナナは、屈託がなく伸びやかで楽しそうな笑顔をしていた。
 RESTART と題されたナナのホームページは、まさに再出発の喜びと楽しさに満ち溢れていた。離婚と言うと、まだ何処かじめじめとした暗い印象が付き纏うものだが、彼女のホームページにはそうした影が微塵もなかった。
 ホームページが表示されたパソコンのディスプレイを食い入るように見詰めていた人物は、次第に両手を強く握り締めた。手に握られたマウスがその力で震え、マウスカーソルがディスプレイの上を彷徨っていた。

五月に入ると暖かさが暑さに変わった。ゴールデンウイークが過ぎて五月も半ばを過ぎると、汗ばむようになった。奈々は、寒いより暑い方が好きだが、薄着になると胸が目立って、男のいやらしい視線が胸元に集まるのが嫌だった。
 奈々は、一年前に僅か四年にしか満たなかった結婚生活に終止符を打ち離婚した。子供はいなかった、離婚後は賃貸マンションで独り暮らしをしていた。奈々の実家は同じ都内なので、独り暮らしをすることもなかったのだが、母親が何かと口五月蝿いこともあって、一緒に住む気にはなれなかった。バツイチとはいえまだ二十八歳なのだから、人生を思いっきり楽しみたかったのだ。
 ウイークデイの月曜から木曜までは、次の日の仕事を考えてなかなか遊びに出られなかったが、金曜日の夜やウイークエンドには学生時代の女友達や会社の仲間達と、六本木や新宿を飲み歩いていた。
 奈々は、背が大きいという程ではなかったが、スタイルがよく、すらっと伸びた綺麗な脚が実際以上に背を大きく見せていた。そして整った顔立ちに大きく愛くるしい目が印象的で、何処にいても目立ち、女友達と飲み歩いているときには、男に声をかけられるのは必ず彼女だった。しかし奈々は、もう男は懲り懲りと考えていたので、自分でも憎らしいと思う程、ハッキリと拒絶していた。奈々にとっては、同性の友人達と飲んで騒ぐ方が楽しかったのだ。
 別れて半年位の間はそれで充分だったが、独り暮らしに慣れるにつれて、ウイークデイの夜が虚しくて、以前から持っていたパソコンを使って、三ヶ月程前にインターネットにホームページを出した。自分の記録のようなホームページではあったが、ページ作りが楽しかったし、ホームページを見て電子メールで感想や意見を寄せてくれる人たちとのメール交換も結構楽しかった。もっとも、メールを送ってくれた人に全て返事を送っていた訳ではなかった。妙に馴れ馴れしいメールや、女相手で目的が見え見えなメールや、自信過剰で押し付けがましいメールなど、変なメールの方が多かったが、中には礼節をわきまえていて、しかも感じの良いメールも少なからずあり、奈々はそうしたメールに絞って返事を書いていた。 そんな奈々にも悩みはあった。それは、ストーカーのようにしつこく付き纏う澤田修司の存在だった。彼は断っても断っても全く挫けず、まるで恋人でもあるかのような態度で接してきた。
 彼とは、半年程前に親友の浅香美奈と彼女の恋人園田翔と一緒に酒を飲んだときに知り合った。そのとき翔が彼なりの気遣いから、友人の澤田を連れてきたのだ。多分、翔は澤田の女性に対する性質を知らなかったのだろうと奈々は思っていた。
 奈々は、一緒に飲んだときに、迂闊にも澤田に勤めている会社を教えてしまった。そして、翌日そのことを悔やむことになった。澤田が会社で待ち伏せをして後をつけたらしく、奈々の住むマンションの前から電話をかけてきたのだ。奈々が遅く帰ったときに、ドアの隙間に宛名も切手も貼っていない手紙が差し込まれていたこともあった。手紙だけならまだ良いが、ドアの前に薔薇の花束が積まれていたときもあった。奈々は、澤田のエスカレート振りがこれ以上激しくなるようなら、警察に届けようと考えていたが、この種のことに対して警察は余りあてにできないことも知っていた。

奈々のウイークデイの夜は、電子メールのチェックから始まる。今夜もいつもと同じように、仕事が終わって家に着くと、すぐにベッドルームに置いてある愛用のノートパソコンのスイッチを入れて、楽な服に着替えてからメールのチェックをした。
 電話回線への接続を知らせる電子音に続いて、ザーッというノイズのような音がしばらく鳴り、やがてメールを受信中のメッセージが表示された。そして、一通のメールを受信した。それはジャックからのものだった。
 ジャックとは、本名ではなくニックネームだったが、彼は三週間程前に、初めてホームページを見た感想を寄せてくれた。ジャックからのメールは、礼儀正しく、奈々の生き方に共感を示してくれて、とても感じが良かった。奈々はすぐに返事を送り、それ以来三日おき位にジャックからメールが来るようになった。奈々も極力返事を書くようにしていたが、返事を送る前にジャックから次のメールが来ることもあった。
従って、ジャックからメールが届くことは決して特別なことではなかったが、その内容はこれまでのメールとは様子が異なり、奈々にとって理解に苦しむ特殊なものだった。

『ナナさん、こんにちは。
 ナナさんは、信用できる優しい方だから、今日はある事を告白しようと思います。
 実は、ぼくは近々ある女を殺そうと思っています。その女は、ぼくの信頼を裏切ったのです。初めは気の迷いだと思っていました。そのうち必ず僕の下に帰ってくると信じていたのです。でもどうやらその気がないことが、最近になってはっきりとわかったのです。許せない。その罪は死をもって償わなければなりません。
 上手くいくかどうかはわからないけど、あの女は会社に行くとき、駅のホームでいつも一番前に並ぶ癖があるんです。だから、電車が来たら後ろからちょっと背中を押してやるだけで済む。簡単なことです。
きっとナナさんは、読んでいて冗談か架空の話しだと思っているでしょうね。でも、ぼくは本気です。本当に人を殺すんです。
 こんなこと言うと、もうメールをくれなくなっちゃうかな。どうかお返事下さい。
ジャックより』

 奈々は当惑した。ジャックは、これまで礼儀正しく、それでいて畏まったところがなく、落ち着いた大人の話しをしていた。そのジャックと同じ人が書いたメールとはとても思えなかった。奈々は、送信者のアドレスを改めて調べてみた。もしかしたら違う人からのメールかもしれないと思ったからだ。しかし、メールアドレスは間違いなく奈々が知っているジャックのものだった。
 冗談にしては余りに質が悪いし、書いてあることが本当なら、ジャックはいかれているに違いないと奈々は感じていた。そして、もしも犯行に及んだとしても、奈々が訴えればジャックはすぐに捕まる筈……と考えたときに、ジャックの本当の姿を知らないことに思い至った。奈々は、ジャックの本名も住所も顔も職業も、本当のことは何も知らなかった。電子メールでは、初めから本名や住所などを尋ねることは余りしないし、仮に教えてくれてもそれが本当かどうかはわからないのだ。これがインターネットの世界だ。ジャックという人物がいるのに、奈々が知っているジャックは、インターネット上で作られた仮想の人物なのだ。しかし、メールのやり取りをしている以上、確実に実在の人物がいる。
 メールアドレスから相手の人物が特定できるのではないだろうか?ふと奈々は気付いた。メールアドレスを貰うためには、本名や住所などをプロバイダーに知らせざるを得ない筈だ。とするならば、メールアドレスから確実に実在の人物を割り出すことができる。警察がその気になれば簡単にできる筈だ。そう考えて、奈々はジャックの意図が余計わからなくなった。奈々は、パソコンのディスプレイに表示されたジャックからのメール文が、不気味なものに感じられた。と同時に、ジャックという人物とのメール交換が気持ち悪く思えてきた。いずれにしても、もうジャックにメールを送るのは止めようと奈々は心に決めていた。

 翌日はいつもと変わらぬ朝を迎え、いつも通りの時刻に出勤した。ジャックのメールのことは頭の片隅に残っていたが、もうジャックへはメールを出さないことにしたので、やがてジャックからもメールが来なくなるだろうと奈々は考えていた。元々ドライで物事に執着しない性格だったので、どうでも良いと思った事を忘れ去るのは早い方だった。
 駅のホームでは、定位置になった後ろから二両目の一番前のドアに当たるところに並んでいた。奈々は、いつも一本前の電車がホームに入ってくる時刻に駅に着くように家を出ていた。そして、その電車には乗らずに、次の電車に乗るために必ず列の先頭に並んでいた。先頭だと座れるという訳ではなかったが、同じ立つのでもちゃんと立つ位置位はキープしたかったのだ。
 奈々は、見るともなく反対側のホームに目をやって電車が来るのを待っていた。程なく近づいてくる電車が見えた。ホームにはいつもながらかなりの人がいた。電車がホームの端に差し掛かったところで、並んでいる人たちは、少しずつ間隔を詰めて列を整えるのが常だった。それにつられて先頭の奈々も心持ち前に出た。そのとき背中に何かがぶつかって、その勢いで前に弾き飛ばされた。
「あっ」
 奈々の後ろに並んでいた男の叫びが聞こえた。奈々の視野には既に大きくなった電車が間近に見えていた。電車がけたたましく警笛を鳴らした。
 落ちる。声も出せずに奈々の脳裏を恐怖が走った。その瞬間、腕を強い力で捕まれ引き戻された。
「そいつを捕まえて!」
 男の叫ぶ声がした。
「誰か!つかまえ……。あ〜あっ、逃げられちゃったな」
 奈々の耳元で男が落胆したように言った。声の主は大学生風の背が高い男だった。そして、奈々の腕をしっかり掴んでいた。
「大丈夫かい?」
 駅員が二人駆け寄ってきた。
「気をつけてよ。落ちたら死んじゃうんだよ!」
 駅員が声を荒げて言った。
「この人は押されたんですよ!」
 奈々を助けた男が駅員に鋭く言った。駅員はその声でばつが悪そうに黙った。
「わざと突き飛ばしたようですよ・・・・」
 大学生風の男は、真剣な顔つきで言った。
「ありがとうございました」
 奈々は、驚きの余りに言葉を出せずにいたが、危ういところを救ってくれた大学生風の男に、ようやく礼を言った。
 奈々は、頭の中が真っ白になっていた。それだけではなく顔から血の気が引いていったことを感じた。奈々は、大学生風の男と駅員、そして周囲の人に辛うじて目礼をしながら、到着した電車には乗らずに列から離れてホームのベンチに向かって歩いた。少し休まないと倒れそうだった。
「大丈夫ですか?」
 駅員が先程とは打って変わって優しく声をかけてきた。奈々は答える代わりに頷いた。
「ホームにいますから何かあったら声をかけて下さい」
 駅員は改めて奈々の顔を覗き込んだが、すぐに職務に戻った。
 ベンチで休んでいたら頭にも血が巡り、奈々のパニックに陥っていた思考が正常に働くようになった。そして、同時にジャックの電子メールの内容が蘇ってきた。
『あの女は会社に行くとき、駅のホームでいつも一番前に並ぶ癖があるんです。だから、電車がきたら後ろからちょっと背中を押してやるだけで済む』
 偶然の一致なのだろうか?ジャックが犯行に及んだのだろうか?ジャックが殺そうとしている女とは、私なのだろうか? 奈々は、疑惑を膨らませていた。しかし、殺される程の恨みを買う心当たりがなかった。確かに街で男に声をかけられたときには、憎らしいくらいにハッキリと断って来たが、そんなことで殺されるなどとはとても考えられなかった。ジャックがメールに殺す理由を書いていたことを奈々は思い出した。確か信頼を裏切ったと書いていた筈だ。そして、自分の下に戻る気がないことがわかったからだと……。奈々は、そのような状況が当て嵌まる相手がいないか考えたが、思い当たる節はなかった。そもそも離婚してからは、男との付き合いはなかった。いやそれどころか、別れた夫と知り合ってからは、彼以外の男との付き合いなどなかった。彼と知り合ったのが二十二歳のときだったので、もうかれこれ六年間彼以外の男との付き合いはなかった。
 待てよ。もしかしたら、ジャックは、澤田修司なのかも知れない。彼なら勝手に裏切ったなどと思い込んでも不思議はない。
 奈々は、澤田こそがジャックと考えると、納得が行く気がしていた。彼ならそこまでやるかもしれないが、どうやってそれを証明すればいいのか奈々には見当がつかなかった。
 考え事をしていたら、何とか気分も回復してきたので、奈々は次の電車に乗るためにベンチから立ち上がった。但し、電車待ちの列の先頭には並ばずに、後ろの方で電車が入ってくるのを待った。もう二度と列の先頭では電車を待たないと、奈々は固く決意していた。

 仕事を終えて家に着いたときには、奈々はくたくたに疲れ切っていた。朝の出来事が原因だった。ふと気付くとジャックのメールのことや、突き飛ばされた時のことを考えていた。そして、横断歩道で信号を待つときも、階段を下りるときも、帰りの電車に乗るときも、後ろが気になって精神的に疲れてしまったのだ。
奈々は、ベッドに倒れこんだまましばらく目を瞑った。何をする気も起きなかったが、突然そうやって無気力でいることが、姿亡き犯罪者に負けたことになる気がしてきた。「負けないわ」奈々は、そう声に出して自分に言い聞かせた。そしてベッドから起き上がり、いつもの習慣通りにパソコンのスイッチを入れて着替えた。熱い風呂に入りたかったので、バスに栓をして蛇口をひねり湯を出した。狭いバスルームにドーッという低い音が響き、熱い湯が勢いよく流れ出た。その音に慣れると電話が鳴っている音が聞こえてきた。

「はい。若杉です」
 奈々は努めて明るい声をつくったが、すぐにそれを悔やんだ。電話は澤田からだった。
「奈々、今夜出掛けないか?六本木辺りで一杯どうかなと思って・・・・」
 澤田の口調は粘りつくようで、奈々は不快だった。
「何度同じことを言わせるんですか?あなたとは出掛けません」
 奈々の口調はかなりきつかった。
「まあそう言わずに……。前は楽しく飲んだじゃないか」
「あれは美奈たちがいたから・・・・」
「君だって本当は僕のことを好きなんだけど、離婚とかあったから、男に素直になれないだけなんじゃないの。もうそろそろ過去のことは忘れても良いんじゃないかな?」
「私が忘れたいのはあなただけです。」
 奈々は、話しているだけで鳥肌が立っていた。そうだ。朝のことをカマかけてみようか?奈々は思い立って、それとなく朝のことを切り出した。
「私、今朝大変な目に遭って、とても出掛ける気分じゃないんです。」
「何かあったのかい?」
 澤田の口調は、特に変わったものではなかった。
「人にぶつかってホームから落ちそうになったの」
「けがしたの?」
「ちょっとだけ」
「そう」
 尚も澤田の口調に変化はなかった。
「奈々、一緒に飲みに行こう。僕は君を愛しているんだよ」
「お断りします。何であなたと・・・・」
「何でそんなに僕を避けるんだ。僕は君を誰かに渡す位なら……」
 澤田は言葉を切った。少しの間沈黙が続いた。奈々は思わず電話を切っていた。誰かに渡す位なら殺すと言うつもりだと奈々は察して、怖くなったのだ。やはり澤田がジャックなのかもしれない。恨まれるとしたら彼しかいない筈だ。奈々はそう考えていた。
 程なく電話が鳴ったが、奈々は絶対に出なかった。澤田からに違いないと思ったからだ。余りにしつこく鳴らすので、電話線を抜いてしまった。
 奈々は、電話はそのままにして、パソコンに向かいメールチェックをした。それはいつもの習慣だった。しばらくしてメールソフトの受信トレイに送信者名ジャックのメールが表示された。奈々は、そのメールが薄気味悪かったが、開かなければ先に進めない事もわかっていた。躊躇いながらも、思い切ってジャックからのメールを開いた。

『奈々さんへ
 今日ついに殺人を決行してしまいました。あの女をホームから突き飛ばしたんです。でも、残念ながら今回は失敗に終わりました。そう簡単にはいかないものですね。次はどんな方法でやろうかな・・・今考えているところです。ナナさん、最高に楽しいですよ♪
                                  ジャックより』

 奈々は、予期していたこととは言え、少なからぬ衝撃を受けた。間違いなくジャックが殺そうとしている女と言うのは、奈々自身のことだと思えた。
 どうしよう。ジャックは別の殺害方法を考えると書いて来た。奈々は怖かった。朝の電車が間近に迫った光景を思い出すと、今でも血の気が引く思いがした。もうあんな思いはしたくなかった。警察に届けるべきなのかもしれなかった。でも警察が取り合ってくれるかどうかを考えると自信がなかった。
 奈々は、何気なく窓に目をやった。細かな水滴がついて曇っていた。それを見てバスルームのドアを開けたままで、お湯を出しっ放しにしていることを思い出した。

(続く)
posted by キャシャーン at 15:04| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月28日

今日は合唱コンクールがありました

今日、私の中学校で合唱コンクールがありました。

私のクラスはなんと、金賞を取りました! やった〜

ものすごくうれしいです。

いろいろな方から「モルダウよかったよ!」

という言葉をいただきました。

私は明日は少し暇なので小説でも書いてみようと思います。

お楽しみに〜
posted by キャシャーン at 22:37| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月26日

大事件発生!!

皆さんは今日のニュースを見ましたか?

私の住んでいる練馬区関町南で警官3人が刃物を持った男に指されるという事件が起こりました。

詳細 

東京都練馬区の路上で警察官3人が包丁で刺され負傷した事件で、殺人未遂などの現行犯で逮捕されたのは26日、近くに住む無職の男(29)と分かった。身柄確保の際に警察官が拳銃を3発発砲、男の太ももに銃弾2発が当たったが、命に別条はないという。

 3人のうち警視庁石神井署地域課の巡査部長(46)が胸や腹を刺され重体。別の巡査部長(47)が右ほおなどを切られ重傷、巡査長(43)が顔を切られ軽傷を負った。

 同署は3人と男の回復を待って発生当時の状況と動機を調べる。

 調べでは、事件の直前に110番したのは男の母親で「精神不安定な息子が包丁を持ち出した」との内容だった。

 都内では今年8月、葛飾区内の路上で刃物を振り回した男に警察官が切られ重傷を負い、拳銃を発砲し取り押さえる事件があった。

 警視庁は今回の発砲について「適正だった」としている。

(Google News より)

現場の映像です↓

現場の映像.wvx

私の塾が青梅街道の近くなのでいつもより20分も遅れてしまいました。
posted by キャシャーン at 21:53| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月25日

今日の出来事

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今日はなんか一日中合唱コンクールの練習をしました。

朝8:15に集まって8:25から練習を始めました。 その後、1時間目は音楽室でモルダウのビデオを見てからモルダウを歌いました。

その後、放課後にも練習をして計2時間半くらい練習しました。

いや〜私はバスを歌うのですがテノールの(WEST)やバスの(Rice P)君にはまだ目立つ課題があるようです。

合唱コンクールまでもう日数がありませんが毎日頑張って練習したいと思います。

posted by キャシャーン at 17:38| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月24日

ショッピング





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いまさら人には聞けない常識力トレーニング

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2006年10月23日

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